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芥川龍之介「或阿呆の一生(火花)」の私的考察




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 八 火花

 彼は雨に濡れたまま、アスフアルトの上を踏んで行つた。雨はかなり烈しかつた。彼は水沫しぶきの満ちた中にゴム引の外套の匂を感じた。

 すると目の前の架空線が一本、紫いろの火花を発してゐた。彼は妙に感動した。彼の上着のポケツトは彼等の同人雑誌へ発表する彼の原稿を隠してゐた。彼は雨の中を歩きながら、もう一度後ろの架空線を見上げた。

 架空線はあひかはらず鋭い火花を放つてゐた。彼は人生を見渡しても、何も特に欲しいものはなかつた。が、この紫色の火花だけは、――凄すさまじい空中の火花だけは命と取り換へてもつかまへたかつた。

 

芥川龍之介さんの『或阿呆の一生』の中からの文です。

芥川さんは35歳で自死しますが、この作品は、その前に書かれ、死後に発見、掲載された作品です。

自殺まで差し迫っていた、芥川さんの人生を凝縮させた作品だと、私は思っています。

最近では、又吉直樹さんが小説のタイトルに「火花」と付けた事で話題になりました。

 

 

芥川さんは、架空線に散る紫色の火花を見て、妙に感動した。

そして、命を賭しても、火花を捕まえたいと思った。

 

 

なぜ、芥川さんは、架空線の火花を、命と取り換えても捕まえたかったのか。

それは、私にもわかりません。

 

 

しかし、わからないのは当然だと思う。

芥川さんの感覚は、普通の感覚とかけ離れている。

普通の感覚では、芸術は生まれない。

平凡な感覚で、文を書いても、平凡な文にしかならない。

ある種、異常な感覚を持って、異常な文を書かなければ素晴らしいものは生まれない。

 

 

電気の線から、火花が出ていた。

普通の人であれば、何も感じず、通り過ぎてしまうであろう事に芥川さんは命を賭けて感動していた。

普通の人であれば、目もくれない、どうでも良い事を、命と引き換えにしてまで、捉えようとした。

 

 

命懸けで山に登る登山家

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私は、山に登る登山家と同じかも知れない。と感じた。

 

 

普通の人は、山の頂上を見上げて「綺麗だなぁ」と思うくらいだ。

しかし、登山家は命懸けで山に登る。

私は、登山をしないので、良くわからない。

なぜ、そこまでして、山に登るのか。

なぜ、人生の全て(命も)を賭けて、山に登るのか。

 

 

私は、登山家の竹内洋岳氏の話を読んだ時、驚いた。

竹内洋岳 - Wikipedia

一度、登山中に雪崩に巻き込まれ、腰椎骨折の重症を負い、救助不可能とまで言われたのに、奇跡的に助かった。

そして、もう登山への復帰は絶望的と言われていたのに、リハビリをして1年後には事故にあった山に再び登り、登頂した。

 

 

他にも、登山家の栗城史多さんは、凍傷で指を失いながらも、エベレスト登頂を目指し、残念ながら山で亡くなった。

どうして、そうまでして、山に登るのだろうか。

 

 

生きている限り、一歩でも上に上がって死にたい

孤高の人』17巻

 

10kmも下りたらすぐに街だ あったけー飯と熱ーい風呂にありつけるっていうのにな…

孤高の人』6巻

 

私の好きな漫画『孤高の人』から。

 

山を降りれば、飯と風呂、待ってる家族がいるのにも関わらず、ほんの少しの食料、200m上がるたびに1℃下がる気温、死と隣り合わせの中で頂上を目指す。

 

 

「そこに山があるから」

山に登る理由を聞くだけ野暮なのかもしれない。

 

 

芥川さんが火花を捕まえたかったのも「そこに火花が散っていたから」なのかもしれない。

自分が「ただ生きる事」よりもやりたい事がある人達を、私は非常に羨ましく思う。

 

 


芥川さんはささいな物を大切にしようとしていた。

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瑣事

 人生を幸福にする為には、日常の瑣事を愛さなければならぬ。雲の光り、竹のそよぎ、むらすずめの声、行人の顔、――あらゆる日常の瑣事の中に無上の甘露味を感じなければならぬ。(後略)

芥川龍之介侏儒の言葉

 
登山家にとっての「登山」が、芥川さんにとっての「日常の瑣事(ささいな事)」だったのではないかと思う。

「人生を幸福にするためには、日常の瑣事を愛さなければならない。

雲の光、竹のそよぎ、雀の声、行人の顔。」

このラインナップの中に、「架空線の凄まじい紫色の火花」も入っていたに違いない。

 

 

幸せ、そして、芸術は日常の小さな事の中にある。

普通の人が「なんでそんな事を・・・」と思うような事に命を賭ける人達がいる。

 

 

私にも見つかるだろうか。

自分の命よりも守りたい「何か」が。

 

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